2010年4月から、趣味で小説を書き始めて、丸10年経ちました。
小学生のころに講談社ティーンズハート文庫に影響されて、何作か書いたりしたけれど、中学生ではそれが漫画に代わって、さらに高校生からは「自分が描くより編集の立場の方がおもしろい」と感じるようになり、日記やレビューはしこしこと書き続けてきたけど、フィクション創作からは遠ざかっておりました。
でもきっと、ずっと「物語」を書きたいという思いが心のどこかにあったのでしょう、たまたま連続で読んだジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』と桜庭一樹『私の男』がすごく面白くて、うわーっとなって、なんとなく温めていた「血のつながらない兄と妹の話」を勢いで書き始めて。
それが意外と書ききれてしまったので、楽しくなって、それ以降も書き続けてきました。
書くのはたいてい、2万字前後の中篇で、長くて5万字程度だった……のですが、見切り発車で始めて、結局8年以上もかけて、なんとか2019年に18万字(+番外編2つ)で完成させた作品があります。
『アフターキング』という小説です。
https://ncode.syosetu.com/n5824s/
東南アジアの小国・ヴェイラの首都の古アパートで、隠遁者のような生活を送るヒゲの男、ジェイル(32)。彼こそ、15年前にわずか17歳で退位した最後の国王だった。
正体を隠しながら静かに暮らす彼のもとへ、突然日本人の女子大生チセが押しかけてくる。ジャーナリスト志望のチセは、ジェイルを取材したいと言う。
パワフルで自由なチセに振り回されながら、ジェイルは諦めていた人生を少しずつ取り戻していく。だが背後では、彼を政変に巻き込もうとする不穏な動きが……。
サイキッシュでは書いている小説の具体的な話はしてこなかったけど、この作品はとても思い入れがあるのと、影響されてきた文化をぶち込んでいるので、副音声的な解説を残しておきたいなと思って。
小説本編を読んでくれとは言わない、でもこの解説は読んでいって!
・舞台は東南アジアの架空の国。15年前に王制から民主化したという設定で、王制への揺り戻しを図るクーデター計画がストーリーのメイン軸
いきなりどこに向けて書いてるんだよ……という感じですが、大学のゼミでは政治体制と民主化を専攻していたので、私にとってはずっと身近なテーマで。書き終えた今も、ミャンマーの政治動乱を見て、つくづく過去のことではない、他人事ではないと思います。
そして東南アジアも大大大好き……ベトナム、マカオ、ペナンなど、実際に旅をした、少し中国の影響を受けている東南アジアの都市をイメージしながら書いていました。
・主人公が元国王、32歳の引きこもりやさぐれヒゲ男子
血統よし、見た目よし、頭もいいと、設定だけ見たらチートなはずなのに、書きながら何度も「こいつ、なんて面倒な男なんだ?」と呆れるほど、うだうだ理屈っぽい主人公でした。私がこれまで見聞きして蓄積してきた「男子のダメな部分」をMAXに出力すると同時に、男子の内なる善な部分も信じながら書いた。
とくに男性メインのロックバンドの歌を聴くときに感じる、“這いつくばりながら、それでも光を求めている”感じというか。
どれだけスペックが高くても、自分の「穴」に向き合わない限り、自分らしい人生は送れない。どこかで腹をくくって、人生のケリは自分でつけるしかない。書き進めるほど、そんなふうに感じていました。
・年の差カップル、バディもの、探偵小説の要素
そんな七面倒な男を家から叩き出すには、生命力にあふれたヒロインが適任だろうと思いました。私の偏愛する「おっさん×少女」をつい書いてしまった。
ただ、主人公に都合のいいだけの女の子にはしたくなくて。動物的というか、小柄でかわいいけど獰猛さがあり、理屈ではなく自分のルールで行動するキャラクターを目指しました。このヒロインに関しては、逆に書きながら「何を考えているんだろう……」と思うほどでした。
年齢差あり、でこぼこのふたりが、街を駆け巡りながら、謎に体当たりしていく。ラブストーリーでもあり、冒険小説、探偵小説っぽい要素もふんだんに取り入れたつもりです。
・王族、上流階級、パーティ!!
ロイヤルへの憧れは私にももちろんあって、華やかな部分はもちろんのこと、「duty」を背負っていることに惹かれる。生まれながらにしてアイドルになることを義務づけられている人々。
自分がなりたいか?と言われると、けっしてYESとは言えないし、実際この主人公もしょっぱなから王位を返上しているのですが、それでも王族に生まれついたという事実は消せない。そんな人が、「その後の人生」をどう生きるか、はずっと好きなテーマです。
そしてパーティのシーンはやっぱりぶち込んでしまうよね。せっかくなのでタキシードとドレスを着せたかった。漫画だととてもじゃないけどパーティシーンの描写なんてできないけど、好き勝手に書けるのは小説のよさですね。
・Soundtrack
夏盛りの街が舞台で、また前述のとおり男性ロックバンドを強く意識しながら書いていたので、聴いていた音楽も男性ものが多かった。
Can You Take Me/Third Eye Blind
Reckless/J
10 Days Late/Third Eye Blind
Jasmine/Jai Paul
Bolero/Maurice Ravel
All Of The Lights/Kanye West
Inhaler/Foals
Lean On/Major Lazer feat.MØ&DJ Snake
NOW YOU KNOW BETTER/Mondo Grosso
Feel Your Blaze/J
U(Man Like)/Bon Iver
The Sound/The 1975
Non-dairy Creamer/Third Eye Blind
Walk On/U2
アルバム単位だとThird Eye Blindの4枚目『Ursa Major』(2009)が本当にぴったりで、特に1曲目の「Can You Take Me」が主人公の気持ちにフィットしすぎて和訳を何度も読み返していたほど。
なにかが起きる予感が肌の内側でゾワゾワとしている、お互いにもうわかっている、これ以上嘘はつけない、暴動の機運はすぐそこまできている、立ち上がって世界を変えなきゃいけない、あとは手を伸ばすだけ、私たちは似ている、今なら、そう今なら、この距離を越えられるかもしれない……
「U(Man Like)」は書き終わる時期に出会った曲で、男子のうじうじした感じがやさしく穏やかに歌われていてキュンとする。終盤の気分にぴったりだった。「Lean On」はダンス×エレクトロだけど刹那的な感じが、ヒロインのテーマソングでした。
・オマージュをささげた作品
そんな大層なものではないですが、書いているうちに自然と、これまで影響された作品を意識する部分がありました。映画『オールドボーイ』、映画『ローマの休日』、小説『ねじまき少女』(パオロ・バチガルピ)、小説『この世界、そして花火』(ジム・トンプソン)あたりが出てきます。
『元国王のスピーチ』『美男ですね』『王の帰還』『とらわれの身の上』『FACES PLACES』『クロージング・タイム』あたりの各話タイトルも、既存作品から借りてます。クスッとしてもらえたらうれしい。
あと「Coldplayなんて、いま年寄りしか聴いてないでしょ?」的な会話も入れてしまった。Coldplayに恨みはないです……主人公は2000年代にオックスフォードに通っていたという設定なので、「Yellow」とか「The Scientist」をラジオですごく聴いていた世代です。
うう、我ながらめちゃくちゃ自己満足なあとがきを書いてしまった。すみません。でも今後の人生でこれだけじっくり書いて完結できる小説が生まれるかどうかもわからないし、記念に残しておきたかった。
もしご興味のある方は、上のリンクから読んでみてね!