ついに友人から「サイキッシュでは、洋楽とかオシャレな情報が見たいから、Jの話はいいよ!」と言われてしまいました。
みんなごめんな・・・ごめんな・・・
ときめきが身体の許容量を超えると、口元がニヤつき、震えがおさまらなくなり、対象の素晴らしさについて言語化せずにはいられなくなる体質なので仕方がない。
明日24日はLUNA SEA仙台公演のライブビューイングを見るつもりでいるし。アンストッパブル!
でもその友人から、「はじめてJの顔をちゃんと見たけど、普通にイケメンだね」という言葉も引き出せたのでよしとする。
Jは普通にイケメン! 背が高くて髪がさらっとしてて薄顔のいけめん! ここテストに出るよー!!
で、最近同じくらい情熱を傾けていたのが、藤原伊織作品。
2010年に「テロリストのパラソル」を読んでどハマりして以来、とても好きな作家なのですが
すでに逝去していることもあり、作品数が少ないので、わざとちょっとずつ読んでいたんですよ。
年に2冊のペースなら、5年は楽しめるな・・・と思っていたのですが
ふと思い出したように買った「てのひらの闇」がやっぱりめちゃくちゃ面白過ぎて
毎日すごい勢いで読んで、他の本も買い足して、結局1週間で3冊読んでしまった。
リーダビリティが高いので、すいすい読めてしまうというのも大きいんですけど。
今回読んだ3冊を紹介します。
「てのひらの闇」
飲料メーカーの宣伝部課長で、リストラを2週間後に控えたサラリーマン堀江が主人公。
会長から人命救助の一部始終をとらえたビデオテープを見せられるが、それはCG合成だった。
そのことを指摘した夜、会長は謎の自殺を遂げる。
大昔に会長から受けた恩義に報いるため、堀江は単身ビデオの謎の解明に動き出す……
ザッツ藤原伊織ワールドとでも言うべき、「アル中のくたびれた中年」「でも実は切れ者で強い」「思惑や嘘が絡み合った複雑な謎」「登場人物がそれぞれの信念に基づいて行動している」etc.といった要素に、ウィットに富んだ会話、行間からにじみ出る教養、贅肉のない描写、細部の職業的リアリティが加わって、とにかく小説としての完成度が高い。
主人公が明け方の六本木の路上に酔い潰れていて、雨粒を頬に感じて目覚めるところから始まるのだけど
その冒頭の描写が素晴らしくて、抑えたクールな筆致なのに、何かが始まるぞー!!という期待を呼び起こされる。
終盤の謎解きは若干綺麗にまとまりすぎではあるけど、ひたすら面白かった。
「話を通して主人公が風邪を引いている」っていう設定も、ストーリーのいいアクセントになっている。
酒を飲む描写がいっぱい出てくるので、私の血中ハードボイルド濃度があがり、ここしばらく酔い潰れたい衝動に襲われています。
そして美人部下の大原が可愛すぎるよ。仕事ができて、旦那がいるけど、主人公にも惹かれていて
でもウェットな部分を出さずに、行動で主人公に報いる姿にしびれる。
「名残り火 てのひらの闇Ⅱ」
作者最後の長編となった作品で、タイトル通り「てのひらの闇」の続編。
堀江が会社を辞めて3年後の物語で、大事な人の死の謎を追っていく、というスタイルも前作を踏襲しているけど
前作ではまがりなりにもサラリーマンだった堀江のネジが少しゆるんで、そのぶん狂気に近づいていることが垣間見えて、ハッとさせられる。
藤原伊織はそういう部分のリアリティも手加減をしないというか、主人公を単に格好いいヒーローにはまとめない。
前半に、大原に絡んできたチンピラに暴力をふるうシーンがあるんですが、明らかにやりすぎだしタガが外れている。
でもサラリーマンをやめる=社会の枠組みから離れるということは、作中の言葉を借りるなら堀江の「逸脱」を進めることで
もっと言えば社会性が薄れ、堀江がもともと持っていた本性が表面化してしまっているんだなと。
だからこそ、それを目撃した大原の混乱と、その後の行動もわかるというか。せつないよう!
一方、後半に主人公が別の人と食事しているとき、ふと大原のことを思い出してうろたえるシーンがあって
その人間味も可愛くて、鋭利なバランスの上に立つキャラクターの妙を堪能しました。
「雪が降る」
6作品をおさめた短編集。珠玉の、と言ってしまいたい、小説づくりのお手本のような作品集。
なかでも表題作は出色の出来で、「母を殺したのはあなたですね」というメールを主人公が受け取る衝撃的な冒頭から
せつなさと苦みを感じさせる回想を経て、雪が降った翌朝、澄んだまぶしさに目を細めるようなラストに辿りつく。
最後の、主人公と同期のやり取りが良すぎて。
いつもだらしない格好をしてる不良サラリーマンの主人公に、出世頭の同期であり友人である男がネクタイをしめてくれるんだけど
ふたりのいろんな過去が交差するシーンで、「男のネクタイしめるなんざ、一回で願い下げだ」と笑う同期に私も泣きそうに・・・
一緒に収録されている「紅の樹」が「てのひらの闇」の元になっていることは一目瞭然だけど
この「雪が降る」もかなり「てのひらの闇」に通じる部分があるなと思ったよ。
そして「紅の樹」ですが、元ヤクザの青年が、アパートの隣に引っ越してきたワケありの母娘と仲良くなって
トラブルに巻き込まれた母親を助けに、敵方に単身乗り込む・・・という話で、まさに「これなんてアジョシ?」という感じ。
あとこの文庫は黒川博行による解説がとてもいい。作者「イオリン」に対する愛に溢れている。
「イオリンは頭がよすぎたために芸大には行けず、東大に入って麻雀と学生運動にのめりこんだらしい」
という一文が最高である。藤原作品の主人公そのもの!
亡くなった時の追悼記事 を読むと、ますます納得する。エジプトロケの金をカジノにつぎ込んだって・・・!
私、小説でも音楽でも映画でもそうなんだけど、どちらかというと作品ごとに評価する傾向が強いので、
ひとりの作家やアーティストの作品を全部揃える、ってあまりない。
「ファン」よりも「批評家」目線が強くなりがちだからだと思うんだけど
藤原伊織に関しては、完全に、その世界観というか作者が表現したい価値観というか
もっといえば作者本人の生きざまも含めて、僭越ながら強いシンパシーをおぼえる。
ハードボイルドな物語とはいえ、話の途中で主要なキャラクターを無闇に死なせないところも好き。
情けなさや愚かさも含めて、それでも人生は続いていくっていう諦観と肯定が好き。
藤原伊織は、職人がハモンセラーノを薄く切るように、一瞬の心情や情景を鋭利に切り取る。
白い皿に載せられた、鮮やかな薄ピンクの肉と筋と血管の断面図。
とて
も活き活きとしているのに、同時に完成された静謐な美しさがある。
人生の酸いも甘いもほろ苦さもせつなさも、ぎゅっと凝縮されたような・・・
そしてそれをつまみに、また酒が飲みたくなる。