11月2日で、夫と入籍して丸2年が経ちました。
この日に婚姻届を提出したのはたまたまだったのですが(11月1日が日曜日で、その日に両家顔合わせをしたため)、翌日が文化の日で必ずお休みなので、結果的には非常にいい選択だったといえる。
同じ11月に夫の誕生日もあるので、豪華な外食はそっちの日にして、結婚記念日は家でシャンパンをあけてごちそうを食べるのが、去年からの習慣です。今年は仕事終わりギリギリにニュークイック(関東を中心に展開している精肉店)に駆け込み、和牛のシンシン1枚2400円をお買い上げし、家でジュージューと焼きました。
次の日の心配をせずに酔っぱらえる夜ほど、ワクワクときめく時間はない。
この2年間、人と生活を共にするということの楽しさと大変さをじわじわ味わってきているけど、「あのときあんなこと言われた!」「あのとき○○してくれなかった」みたいな恨みや不満はそんなにないので、それだけでも上手くいっていると言えるんじゃないかと思う。
ひとり暮らしが長かったし、そもそもひとり遊びが好きなので、週に1回くらいは夫が出かけてくれてていいというのが素直なところだったりするのですが、逆に言ったら、週の大半は一緒にいたいということなのだと思います。
夫婦生活といえば、今年読んだ荒木陽子の『愛情生活』というエッセイが素晴らしくて。
作者はアラーキーことカメラマンの荒木経惟の妻で、じつはのちに病気で早逝することになるのですが、ふたりの暮らしを飄々と、愉しげに、鋭く書いた本です。
さすがアラーキーの奥さんというか、才気煥発な夫に対してフラットで、ラフで、同時に少女のように愛していて、自分らしい感性があって、いい意味でふてぶてしくて、楽しいことに貪欲で、お互いがお互いになくてはならない存在だと知っている。
描かれる日常は、映画を見たり、食事に出かけたり、街を歩いたり、旅先のホテルでドレスアップしたり、テレビを見たり、銭湯に行ったり、セックスしたり、冗談を言い合ったり…ということがすべて等しく並んでいて、つまりそれが「夫婦の生活」ということなんだと思う。
特にふたりとも食いしん坊で、家での食事も外食も、事細かにじつに生き生きと描写されていて、それが本当に楽しい。
神楽坂のイタリアン、家で食べる湯豆腐と鉄火丼、志摩観光ホテルの生牡蠣、手作りのレアチーズケーキ!
ときどき夫以外のボーイフレンドともお酒を飲んだとしても、夫と妻としての完璧な結びつきがそこにはあって。あっけらかんとしてお茶目で、最高に楽しくて、生々しいのにどこか夢みたいで。ああ、これが東京に生きる夫婦の黄金風景だ、私もこういう楽しさの中に生きていたいんだ、と胸がいっぱいになりながら思った。
じつはここからが本題なのですが、このエッセイを読んで、私もこういう文章を書いていかなくては、とも感じて。結婚してから、あんまりプライベートなことをネットに書くのは(夫に対して)不作法かなあとどこかで線を引いていたのですが、ひとつの書きものとして昇華されていれば、そこまで自主規制することはないのではないか、と。
やっぱり私は書き手の気配が感じられる、日常を切り取った話が好きだし。
なので今日は、この2年間でいちばん印象的だったエピソードについても書きます。
去年の夏、私はシアーシャ・ローナン主演の映画『ブルックリン』を見るために、仕事をはやめに抜けて、日比谷シャンテに向かっておりました。
思ったより上映まで時間がありそうなので、有楽町ルミネでも覗いていこうかなと思いつつ、新橋駅から歩いて。新橋から有楽町方面へはいくつか行き方があるけど、その日は銀座側ではなく、ガードを挟んで日比谷側の、割と人通りの少ない道を通ることに。第一ホテル東京とかの前を過ぎる道ですね。
これから見たかった映画を見るぞーという楽しい開放感で足取り軽く歩いていたら、誰かが私の名前を呼ぶ声が。振り返ったらなんと夫でした。
「同じ家に住んでいる女が、前から歩いてきてびっくりした」という夫、そして呼ばれるまで気づかなかった私。
夫は19時から近くで会社の飲み会があり、それまで時間を潰そうと、ニュー新橋ビル地下のゲームセンターへ麻雀をしにいこうとしていたところだったよう。
え、じゃあせっかくだから一杯やる?ということで、目の前の適当なガード下居酒屋に入って、入口すぐのカウンター席に座った。
独身時代の待ち合わせてデートとも、結婚した今の一緒に出かけてデートともちょっと違って、お互い別の目的があったのに偶然会って、冷えたビールで乾杯していることがとても新鮮で。ありふれた一瞬のようでいて、でももしかしたら今後二度とない経験かなと思って、なんだかとても嬉しかった。30分くらいで解散したけど、かえってそれもよかったと思う。
満ち足りた気持ちで劇場に向かって観た『ブルックリン』も、期待以上にいい映画だった。故郷から都会にひとりで出てきた主人公が、人生を誰と・どこで過ごすのか、という主題だったので、図らずも自分と重ねあわせて見たし、最後に主人公の表情が大映しになるシーンがあって、決意を秘めた笑みにすごくぐっときて、涙が出てしまった。
ちなみにもうひとつ忘れられない理由があって、映画館を出たあとにスマートフォンを開いたら、なんとその晩、天皇陛下退位報道のスクープがあったんですよね。
一個人としてはなんてことない楽しい平日で、同時に社会では大きな出来事が起こっていて、まさにそのニュースを日比谷という皇居近くで見たのもあって、おそらく後年になっても忘れられないであろう、印象的に焼き付いている夏の夜です。